「あぁ・・・思った通りだ、よく似合ってる」
振り返って、柳は遠慮がちに部屋に足を踏み入れた手塚に向かって感慨深げな溜息を吐いた。
見立て通り、いやそれ以上。
半ば強引にでも誘ってよかった。
手塚は指示通り、眼鏡をしていない。
そのせいでよく見えないのか、眉毛が通常より顰められているのが残念といえば残念だが。
決して美しさを損なうものではなく。
意図せずともするりと賞賛の言葉が出た。
その言葉を聞いているのかいないのか、柳のいる縁側へと寄ってきた手塚は戸惑った顔で立ち止まった。
一向に座ろうとしない手塚にどうした?と問い掛けると、皺になるだろうと手塚。
気にするな俺も座ってるんだから、と手を引くと裾を気にしながらもようやく隣に腰を下ろした。
「いいのか?こんな上質なものを」
「あぁ。手塚に着てもらいたかった」
俺の我侭だ無理を言って悪いな、と柳が言う。
すると、嫌な訳ではない、と手塚は口を噤む。
ここまでは予測範囲内、と柳は脳内のデータを引っ張ってくる。
でも、その後に一言が付け足された。
「むしろ、嬉しい」
・・・嬉しい?
単純に嬉しい気持ちとこれは計算外だという気持ちがない交ぜになる。
習い性でデータの書き換えを試みたがそれは叶わなかった。
手塚のガラスに覆われていない真っ直ぐな瞳が柳を見つめていた。
覗き込むようにしたために至近距離で。
柳は何かの引力に囚われてしまったかのように目が放せなくなってしまった。
あぁこの目だ、と柳は痺れた頭の片隅で思った。
口よりも遥かに雄弁な。
俺はこれが欲しい。
「・・・柳?」
手塚の訝しげな問いかけに、柳は自分が手塚を凝視したまま硬直していたことを知った。
おまけにいつの間にか手が宙に浮きかけている。
そんな自分に驚いて、何をする気だったんだと手を握りしめる。
手塚のことだから嫌がっているわけではないということの意思表示なのだろう。
「そうか・・・ならよかった」
舌を湿らせてようやくそれだけ言うと、手塚がほっとしたように目元を緩めた。
それと同時に柳もやけに心拍数の上がる呪縛から解放される。
近づいていた顔も放れていった。
名残惜しいと思う気持ちと、安堵する気持ちがある。
手塚の目は常から引力があるが、今日は眼鏡がない分それだけダイレクトに伝わってきた。
言うなれば、心臓に悪い。
眼鏡がバリアの役割になっているようだ。
自分で希望したことだが、周りの精神衛生上着用してもらっていた方がよさそうだ、と柳は苦笑まじりに思った。
・・・だから手塚は余り眼鏡を外さないのだろうか。
ふと、そんなことを思った。
季節感なくてすみません(今は3月です)
初めは弦ちゃんもいる予定だったんですが柳さんが抜け駆け(笑)
ちなみにこの3人は私的和服が似合うランキングベスト3です。
浴衣は国光の好きな青と緑で。柳さんの好きな白は国光が持ってるからいいんですv