不二さん Happy Birthday!             ※中1手塚設定です





「手塚!」

「わっ・・・」

まだ肌寒い季節。着替え終わった手塚がテニスコートへ向かおうとしたとき、いきなり背後から抱きつかれた。
驚いたのと勢いで前のめりになったのとで体勢が崩れそうになったところを、後ろの襲撃者が立て直す。
んー、可愛いなぁなどと言いながら頭をぐしゃぐしゃ撫でられる。
声で背後の人物の見当はついたが、一応首を捻じ曲げれば、さらさらの少し長い茶髪と人のよさそうな笑顔。
やっぱり。
とっくの昔に引退したはずの、不二周助だった。校舎内ではたまに見かけるが、部活に顔を出すのは久しぶりだ。

「不二先輩」

「久しぶりだね」

「お久しぶりです。・・・放して下さい」

「ふふ・・・嫌だって言ったら?」

「・・・・・・」

そんなことを言われてもこれから部活だ。手塚が無言で身を捩ろうとしたら、すんなりと解放された。
いつものしつこさを思えば意外なほど。
ちょっと拍子抜けして、手塚は振り返った。

「!!」

「やっぱり、こっちのがいいよね」

よくない。
今度は正面から抱きつかれてしまった。
無言でいると、クスクスと笑う気配が伝わってくる。

「あの、」

「手塚、誕生日なんだ、今日」

唐突な言葉に、放して下さいと続くはずだった言葉を飲み込んでしまった。

「おめでとうございます」

とりあえずお祝いの言葉を言う。ありがとう、と不二。知らなかった。だが、それと今の状況と何の関係があるのだろう。
手塚が首を傾げていると、

「だからもうちょっとこのままでいてね」

と不二。訳が分からない。誕生日だから自分のしいたいように好きにさせろということだろうか。
溜息一つ。
この先輩はいつも自分のしたいようにしている。どうせ今回も気の済むまで逃がしてくれないだろうと思い、集合の合図までですよ、と言って諦めてじっとすると、もっと強く抱きしめられた。
引き寄せられたために爪先立ちになって、足元が覚束ない。手塚はバランスを崩さないように不二の学生服の脇を掴んだ。

「エネルギー補給」

「え?」

「手塚からのプレゼント」

「・・・これがですか?」

そういうと、一瞬きょとんとした不二がまた笑う。
何なんだろう、本当に。
不可解な言動に手塚がちょっとムッとすると、ゴメンと不二が言った。

「あったかいねってことだよ」

そんな話だったろうか。それにしてもこんなものがプレゼントとは変わった発想だ。確かにひっついていて温かいが。
そう思って、そうですねと言えば、また笑われた。
手塚って本当に手塚だよねぇと不二が言うのを、手塚は訳も分からず聞いた。

「本当は誕生日2月29日なんだけど、別にいいよね」



5分後、二人を発見したリョーマとリョーガが阻止しにくるまで、不二はテニスコートの前で手塚と抱き合ったままお喋りを楽しんだ。







「早く部活・・・」

そう思い、新部長桃城はちらりと不二の方を見た。すると、なぜ気づいたのか、いつもの様子からは想像できないほど冷たい目が圧力をかけてくる。
どうすべきか分かってるよね?という顔。テニス馬鹿な手塚が、部活が始まってもあのままということはないだろう。
部活を始めたら身の破滅だ。冗談ではなく。
分かってますよ、と引きつりながらも身振りで示す。と、すぐに不二は打って変わって優しい顔で手塚に向き直る。


「・・・・・はぁ」







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